東京地方裁判所 昭和61年(特わ)1851号 判決 1986年12月03日
本店所在地
東京都江戸川区南篠崎町四丁目七八番地
豊栄金属株式会社
(右代表者代表取締役 木村誠)
本籍
山形県天童市大字原町甲一〇一九番地の二六四
住居
千葉県千葉市小倉台五丁目一四番六号
会社役員
木村誠
昭和五年一月二一日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官大久保隆志出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人豊栄金属株式会社を罰金二八〇〇万円に、被告人木村誠を懲役一年二月にそれぞれ処する。
被告人木村誠に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人豊栄金属株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都江戸川区南篠崎町四丁目七八番地に本店を置き、スクラップの販売並びに仲介等を目的とする資本金一二〇〇万円の株式会社であり、被告人木村誠(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空仕入を計上するなどの方法により所得を秘匿した上
第一 昭和五七年九月一日から同五八年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億七六三三万一七五三円あった(別紙(一)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五八年一〇月二九日、東京都江戸川区平井一丁目一六番一一号所在の所轄江戸川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三一三一万九〇円でこれに対する法人税額が一一六八万である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六一年押第一〇二二号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額七二五七万六七〇〇円と右申告税額との差額六〇八九万六七〇〇円(別紙(三)ほ脱税額計算書参照)を免れ
第二 昭和五八年九月一日から同五九年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億五六一万一九六円あった(別紙(二)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五九年一〇月三〇日、前記江戸川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が九五七万六〇四円でこれに対する法人税額が二六九万七五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額四四二三万九一〇〇円と右申告税額との差額四一五四万一六〇〇円(別紙(四)ほ脱税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全部の事実につき
一 被告人木村誠の当公判廷における供述
一 被告人木村誠の検察官に対する供述調書五通
一 登記官作成の商業登記簿謄本
一 国兼俊夫、鈴木久及び森裕代の検察官に対する各供述調書
一 収税官吏作成の次の各調査書
1 仕入調査書
2 租税公課調査書
3 事業税認定損調査書
4 受取利息調査書
一 検察官作成の捜査報告書
判示第一の事実につき
一 岩澤三枝子の検察官に対する供述調査書
一 押収してある法人税確定申告書(昭和五八年八月期)一袋(昭和六一年押第一〇二二号の1)
判示第二の事実につき
一 押収してある法人税確定申告書(昭和五九年八月期)一袋(同押号の2)
(法令の適用)
一 罰条
1 被告会社
判示第一及び第二の各事実につき、法人税法一六四条一項、一五九条一、二項
2 被告人
判示第一及び第二野各所為につき、法人税法一五九条一項
二 刑種の選択
被告人につき、いずれも懲役刑を選択
三 併合罪の処理
1 被告会社
刑法四五条前段、四八条二項
2 被告人
刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第一の罪の刑に加重)
四 刑の執行猶予
被告人につき、刑法二五条一項
(量刑の事情)
本件は、スクラッブの販売並びに仲介等を目的とする被告会社の代表取締役である被告人木村が昭和五五年ころ、日本鋼管株式会社と取引を始めるにあたり約四億円の設備投資を行ったが、相手方の都合で取引を打ち切られて経営危機に陥りそうになった教訓から、万一の時に供えて会社資産の留保を図ったもので、そのために架空仕入を計上するなどの方法により、二事業年度分の合計で一億二四三万円余の被告会社の法人税を免れたというものであって、そのほ脱額が高額であるうえ、ほ脱率も昭和五八年八月期が約八三・九パーセント、同五九年八月期が約九三・九パーセントといずれも高率であり、ほ脱の具体的方法も、取引先に架空の納品書及び請求書の作成を依頼して被告会社宛請求させ、振込まれた代金を取引先から返戻させたり、架空の取引先を設けて、事情を知らない第三者に架空の納品書、請求書、を作成させ、架空人名義の預金口座にその代金を振込ませるなどした後、その金で被告人名義又は他人名義で国債等を購入するなどして所得を隠蔽していたもので、その手口は巧妙であり、税務調査に備えて架空人名義の口座を全て解約して、その通帳及び印鑑を焼却するなど全体としての犯情も悪質で、被告人の刑事責任は重いといわなければならない。
しかしながら他方、被告会社においては架空仕入を計上したものの、他にはことさらな会計処理上の操作を行っていないこと、被告会社は修正申告した上、法人税のみならず地方税についてもいずれも完納したこと、脱税の目的は、被告会社の経営危機に備えるということで、被告人が私に使用したことが認められず、被告人木村名義等になっていた被告会社の裏資産は、全て被告会社の会計に組み入れられたこと、被告人は本件を反省し、被告会社の在庫管理の方法を改善するなど、今後の納税に遺憾がないようにすることを誓っていること、被告人はこれまで真面目に働き、前科前歴がないことなど、被告人に有利な事情も認められるので、これらを斟酌して、被告人に対しては懲役刑の執行を猶予するのが相当であると判断した次第である。
(求刑 被告会社につき罰金三五〇〇万円、被告人につき懲役一年二月)
よって主文のとおり判決する。
(裁判官 鈴木浩美)
別紙(一) 修正損益計算書
豊栄金属株式会社
自 昭和57年9月1日
至 昭和58年8月31日
<省略>
別紙(二) 修正損益計算書
豊栄金属株式会社
自 昭和58年9月1日
至 昭和59年8月31日
<省略>
別紙(三)
ほ脱税額計算書
自 昭和57年9月1日
至 昭和58年8月31日
豊栄金属株式会社
<省略>
別紙(四)
ほ脱税額計算書
自 昭和58年9月1日
至 昭和59年8月31日
豊栄金属株式会社
<省略>